知ってる人はおしぼりを経験してる

ニューディール政策が米国を恐慌から救ったのか、それともニューディール政策を行ったにもかかわらず第二次世界大戦まで米国経済が不況から脱出できなかったのか、学者の間にも様々な意見がある。 どこまで効果があったかは別としても、大不況の最中にニューディール政策を実施したことは正しい判断であったと思う。
Kが古典的名著『K」(いわゆる一般理論)を世に出したのは1936年である。 残念だが、一般理論は大恐慌には間に合わなかった。
もしこの本がもう10年ほど早く出ていたら、世の中は変わっていたかもしれない。 大恐慌期に各国が積極的に財政による景気対策を行っていたら、あれほどまでに景気は悪化しなかったかもしれないからだ。
戦後の主要国の経済政策は、K経済学の影響を大きく受けることになる。 経済の好不況をチェックしながら、必要に応じて景気対策のための財政政策を行うのだ。
財政政策としては、減税もあるだろうし、公共投資を拡大することもあるだろう。 そのための財源は通常は国債発行で賄う。
つまり、一時的に政府の借金を増やしてでも、景気のてこ入れを行うというのがK政策なのだ。 1970年代以降、主要国が深刻なインフレに見舞われる中で、経済学の世界ではケインズ経済学が少しずつその地位を落としてきた。
それと同時に、政府が悲意的に財政政策を行うよりは、できるだけ均衡財政を守ったほうが長期的には経済にとって好ましいというM教授の考え方が支持を増やしてきた。 いつしか、K(K学派)というのは時代遅れの考え方だと捉えられるような風潮も広がった。

皮肉なことに、Kが確立したK経済学が、戦後の世界が大不況に陥るのを抑えてきたと言うこともできる。 K経済学が成功すればするほど、不況への恐れが薄れ、それに代わってインフレへの脅威が頭をもたげてきたのだ。
こうしてインフレの脅威に正面から取り組んだF教授的な考え方が主流になった。 今回の世界的な金融危機によって状況は一変した。
ここ20年ほどの間に、主要国はインフレを抑えることに成功してきた。 その成功の結果、物価上昇率が低くなり、逆に不況のときにはデフレが起きる可能性が高くなってしまったのだ。
デフレになれば、デフレの経済学であるK経済学が再度表舞台に出てくる。 米国や中国をはじめとした多くの国で、K政策が大胆に行われようとしている。
世界的な金融危機の中で、これから相当の期間、世界の景気は非常に厳しいものになるだろう。 一刻も早く不況から脱出するためには、各国が大胆な景気対策、とりわけ財政政策を打ち出す必要がある。
K経済学の考え方であり、現在の世界経済の状況では多くの人に支持されるようになっている。 現実問題として、景気が悪くなれば大量の失業者が生まれる。
遊休設備も多く出るだろう。 オフィスや貸店舗に空きが増え、道路や航空機などがガラガラになり、物流量なども減少する。
要するに、経済が持っている資源の多くに遊休が生じるのだ。 これほどもったいないことはない。

K政策の考え方は、こうした遊休の設備や失業者を有効に活用することが、経済活力を高めるためにも必要であるというものだ。 海外では多くの国が積極的にK政策を打ち出し始めた。
米国はO政権になって大胆な景気刺激策をとるという。 この機会に、老朽化した橋や道路などを整備するという考えもあるようだ。
中国も、日本円に換算して約57兆円もの財政刺激策を発表した。 輸出に過度に依存してきた経済に、内需を起こすという狙いがあると言われている。
また、沿岸部に比べて格差の目立つ内陸部のてこ入れをすることで、所得格差縮小を狙っているとも言われている。 今後、世界経済の景気がさらに悪化していく中で、より多くの国がより大規模なケインズ政策をとることが予想される。
困ったことに、日本にとっては、大胆なK政策を行うことは非常に難しい状況である。 過去から積み上がった膨大な政府債務を考えると、これ以上財政赤字を積み上げて、さらなる債務を増やすことができるのかという問題に直前しているのだ。
長年続いてきた財政赤字がここに来て大きな障害となっている。 ただ、日本だけがK政策をとれないとすれば、日本だけ景気回復が遅れることにもなりかねない。
もちろん、他の国の景気が回復軌道に乗れば、日本も輸出を伸ばすことができるのではないかという見方もある。 だが、輸出頼み、他国の景気回復頼みというのでは、なんとも情けない。
そこで、一つの政策のアイディアを考えてみた。 この政策を実行できるかどうかは別として、こうした方向で政策を考えたらよいのではないか、というアイディアである。
まず、3年後から消費税を10%に引き上げると決定する。 これから2、3年は景気が悪そうだから、3年後からの引き上げとする。

そうすると、駆け込み需要が期待できる。 一方、消費税を10%に引き上げれば、12兆5000億円ほどの税収が見込める。
その2年分程度、つまり25兆円程度を、現在のK政策として前倒しで将来の日本をよくするための投資に回す。 これによってK政策としての景気刺激策が期待できる。
投資先としては、地球気候変動の原因となる温暖化ガス抑制に寄与する分野がよいだろう。 多くの専門家によって指摘されているように、温暖化ガス排出抑制のスピードを速める必要がある。
そのためには、多くの投資が要求される。 発電では脱炭素社会実現のために、天然ガス、石油、石炭による発電から、ソーラー、地熱、風力、燃料電池、バイオマスなどの発電にシフトしていく必要がある。
こうした転換にも多くの投資をともなう。 交通ネットワークも、温暖化ガス排出の少ない手段へとモーダルシフトしていかねばならない。

たとえば、飛行機よりは新幹線のほうが温暖化ガス排出量ははるかに少ないので、新幹線の建設スピードを速めることも考えられる。 その他、住宅、都市、工場設備、物流ネットワークに至るまで、多くの分野で温暖化ガス排出抑制のための投資が必要だろう。
そうした投資を公共投資で行ってもよいし、企業や家計の投資を減税や補助金で支援するという方法も考えられる。 このような投資は、不況対策として、つまり当面のK政策として有効であるだけでなく、将来の日本にとって重要な投資を行うというメリットがある。
少なくとも、給付金で闇壷云に消費を増やそうという政策よりはるかに優れている。 このような将来に向けてのグリーン投資を「21世紀のニューディール政策」と呼んでもよい。
以上のような政策を行った上で、3年目以降からは消費税を10%にする。 最初の2年分の増収部分は前倒しでグリーン投資に使うが、それ以降の増収部分は、高齢化にともなって増える年金・医療などの社会保障に回せばよい。
高齢化の下で安定的な社会保障費を賄うために、消費税率の引き上げが避けられないのは、多くの人が認めるところだろう。 このように3年後からの消費税引き上げを前提としたグリーン投資の促進には、同時に4つの効果が期待できる。
第1に、消費税引き上げを織り込んだ駆け込み需要による景気刺激効果。 第2に、K政策による公共投資の景気刺激効果。
第3に、グリーン投資によって長期的に温暖化ガス排出を抑制するという投資効果。 第4に、高齢化でも社会保障費を安定的に確保できるようにするための消費税率引き上げの実現である。

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